『急行「北極号」』大人に贈りたいクリスマスの絵本

大人になってから出会った絵本の中で、これほど「即買い」だった絵本は他にない。

汽車の絵本?いえ、クリスマスの絵本です!

表紙には、雪の夜にたたずむ重厚感のある汽車の絵が、落ち着いた色調で描かれている。タイトルは『急行「北極号」』。この表紙とタイトルを一見すると、クリスマスの絵本だとは到底思えないかもしれない。それが実は、大人にこそオススメしたい、不思議な魅力のある神秘的なクリスマスの絵本なのだ。

あらすじ

クリスマス・イブの夜、僕は息をひそめてサンタのそりの鈴の音が聞こえてくるのを待っていた。ところが、聞こえてきたのは鈴の音ではなく、汽車の音だった。窓の外を見ると、なんと家の前に汽車が止まっている。僕は忍び足で家の外へ出て、汽車に駆けよった。車掌に聞くと、北極点へ行くのだという。

汽車に乗り込むと、客車の中は楽しそうに過ごすパジャマ姿の子どもたちでいっぱいだった。汽車は暗い森を抜け、山や谷を越え、いつのまにか北極点へ。

サンタや、サンタのお手伝いをするたくさんの小人たちが暮らす北極点は、とても大きな町で、クリスマスのおもちゃが全部作られているという工場がいっぱいある。

クリスマス・イブのその夜は、北極号でやってきた子どもたちの中から、サンタのプレゼント第1号をもらう子どもが選ばれるという。サンタは僕を指さして「この子に決めるとしよう」と言うと、僕をそりに乗せてくれた。でも、僕がいちばんほしいものは、サンタの大きな袋の中には入っていない。

物語のクライマックスはここから。ぜひ読んでみてほしい。

美しい絵画のような絵本

この絵本の作者は、「光の魔術師」といわれるオールズバーグ。

夜の暗闇をそっと照らし出す汽車のライト。降り積もる雪の明るさ。狼がうろつく森の静けさ。汽車の中で過ごす子どもたちの楽しそうな様子。町のあたたかみ。サンタのおだやかでやさしい顔。主人公「僕」の気持ち。物語の最終ページで、神秘的な存在感を放つ鈴。

物語の要がすべて、「光」の具合で見事に表現されている。

全ページ見開きいっぱいに描かれた絵は、どれも美しく、キラキラとした賑やかな明るさはないが、落ち着いたあたたかいクリスマスを感じることができる。

大人にオススメの絵本

文章量は多めで、漢字が多く、ルビはない。村上春樹による日本語訳の文章は、大人を意識して書かれているように思う。

作者がこの絵本に込めたであろう思いや、読者に伝えたいであろうメッセージも、「かつて子どもだった人たち」に向けたものではないだろうか。子どもの頃の自分、そして子どもの頃の気持ち。きっと読む人それぞれに、大切な何かをよみがえらせてくれる絵本であると思う。

クリスマスは、大人だって楽しみなもの。かつて子どもだった人たちに、ぜひ届けたいクリスマスの絵本。ぜひ手にとってみてほしい。

本の情報

『急行「北極号」』
クリス・ヴァン・オールズバーグ/著 村上春樹/訳 2003年11月 あすなろ書房 32p 23cm アメリカの絵本 コルデコット賞受賞作品(※注)
1987年に河出書房新社から出版されたものの改訳版

(※注)コルデコット賞:アメリカで出版された絵本の中でもっともすぐれた作品の画家に対して1年に1度贈られる賞。1937年にアメリカ図書館協会によって創設。19世紀イギリスの絵本画家ランドルフ・J・コルデコットの名にちなんでいる。

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